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雑多ジャンル小話及び時々オフライン情報。初めましての方はアバウトからご一読下さい。
2025年12月30日 (Tue)
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2011年04月16日 (Sat)
11月のムパラで出したパンドラム本です。年齢制限なし。
バウアー←シェパードみたいな。
シェパードとバウアーが地球での船員訓練で仲良しになっていたらいいよね!という妄想本。

シェパードかわいいよシェパード。


続きからサンプルです。

「――っ、」
 引き攣った声を上げながら目を覚まし、シェパードは目の前に広がる暗闇にまだ夢の中にいるかのような錯覚を覚えるが、ごうん、ごうん、と響き渡る不気味な音に現実なのだと思い知らされる。
「誰だったかな…」
 悪夢にも似た夢に登場した人物は目が覚めてしまえばもうその顔も思い出せない。しかし残る胸の痛みにシェパードは堪えるように眉を顰めて溜息を吐くと、慌てて周囲を見渡す。
 何時間眠ってしまったのか判らなかったが、運良く怪物に見つからなかった事にシェパードは胸を撫で下ろし、ぐったりと壁に凭れ掛かった。
「さて、どうしよう」
 誰に問い掛ける訳でもなく、ぽつりと呟く。
 このままここに隠れていても現実は何一つとして変わらない。
 冷凍睡眠から覚めた時一緒に居た二人の仲間は怪物に捕まってしまい、同じチームで生き残っているのは自分一人になっていた。
 この広い船の中で生き残っている人間が他に何人居るのかなんて判らないが、一人でも他に生きている人間が居れば希望が持てる。
 シェパードは薄闇の中で自身の体を見下ろし、じっとその服を見つめた。
 船員服。この船を守る人間の一人である自分。
 このままここに居ても意味がない、と頭の中で理性が叫ぶが、本能がそれを拒絶していた。
 しなくてはいけない事は沢山あったが、体力の限界を感じているのもまた事実で。
「……何か食べたい」
 耐え切れずに紡ぎ、鈍い痛みを訴え続ける腹部にそうっと手を当てる。
 最後に口にした物を思い出す事も難しい。
「ずっと…」
 夢を見続けていたかった。冷凍睡眠から覚めたくなんて無かった。
 ぐるぐると言葉が巡る。
 けれど起きてしまった以上、また自分の立場を考えれば逃げ回るだけにも行かず、シェパードはぐ、と強く拳を握る。
 逃げ回る中で学習出来た事もあった。
――どうすれば怪物に見つからず船内を歩けるか。
 彼らは視力よりも聴力や匂いで人間を判別しているのだと知ったのは、仲間の死があったからこそ。
 その死を無駄にする事は出来ない。
 仲間の声が耳にこびりついて離れない。
「生き残るんだ……きっと…」
 救助船が来ればきっと変わる。他に生きている人間が居れば希望が持てる。
 自分だけがこの広い船の中で生きている訳ではないのだという証拠が欲しい。
 ゆっくりと体を伸ばし、シェパードは隠れていた隙間から這い出し、薄暗い廊下に立つ。
 ぐるりと見渡し、周囲に怪物の気配が無い事を確認し、シェパードは怪物の攻撃を受けて配線が剥き出しになっている部分からどろりと既に劣化しているオイルを掬い、鼻につく匂いに眉を顰めながらも体中に塗りたくる。
 見目の事など考えている余裕など無い。
「行く、か」
 再度周囲を見渡し、すぐに弱気になってしまう自身の心を奮い立たせるようにシェパードは小さく紡いだ。
 
 
「バウアー」
 見かけた後姿に声を掛ければ、その足が止まりくるりと振り返る。
「シェパード」
「配属班決まっただろ、何班?」
 挨拶もそこそこに問えば、バウアーは手にしていた電子パッドを脇に挟みながら、ほら、と腕を捲くって見せた。
「あぁ、第5班に決まった」
 刻まれた文字をシェパードに見せる格好を取るバウアーにシェパードはその数字に驚いてしまいながらも、にやりと笑みを浮かべた。
「奇遇だな、俺は6」 
 同じように様々なデータの入力された腕の番号を見せれば、へぇ、とバウアーもその偶然に驚いた声を上げる。
「結構なチーム数あるはずなのにな」
「俺もチームが近いのはバウアーだけだなぁ」
 他にも顔見知りはいたが近い班に配属された人間はバウアーしかおらず、じゃあ、とシェパードは悪戯めいた笑みを浮かべて続ける。
「俺の前、って事はバウアーが起こしてくれるんだな」
 優しく頼む、とからかえば、バウアーは声を出して笑い、任せろ、と胸を張った。
「これ以上ない位優しく起こしてやるから」
「期待してる」
 短期間での冷凍睡眠は適正検査の中で経験があったが、長期間の経験は無く、不安が無いと言えば嘘になってしまう。
 見知った相手が対応してくれるならこれ程心強い事もなく、数字の刻まれた腕に視線を落としていれば、で、とバウアーが笑みを含ませたまま問い掛けた。
「シェパードが俺を眠らせてくれるんだろ?」
「ゆっくり眠らせてやるから楽しみにしてろ」
 前後する番号の役割を面白がるバウアーにシェパードもわざとらしい笑みを浮かべながら続ければ「楽しみにしてる」とバウアーは肩を上げて笑った。
バウアーの家に泊まった翌朝、何事も無かったように振舞うバウアーにシェパードはそれ以上追求する気も起きずに酔った勢いだと忘れる事にした。
 結局離婚に至ったはっきりとした理由をバウアーから聞く事は無かったが、シェパード自身もエリジウム船員に応募した理由も説明する事は無く、お互い様だと言葉にせずに互いに納得した形で交流が続いていた。
「そういえば」
 思い出した、とシェパードは唐突に話題を変えようとすれば、何、と声に出さずにバウアーは先を促す。

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